デジイチやミラーレスよりも、スマホの写真がよく見えてしまうわけ
「写真はスマホで十分だ。いや、スマホの方がデジイチやミラーレスよりもいい写真が撮れる」とする人は珍しくないようです。確かに、SNSにアップするぐらいならば、スマホで間に合うことも多いでしょう。ただ、スマホの写真の限界を知っておかないと、粗ばかり目立つ写真を掲載して、記事やサイトの価値を下げてしまう危険性があります。
今の時代、仕事で扱う人でさえ、スマホ&SNSの写真しか知らないらしい
私は元は全国紙の写真部員(報道カメラマン)で、今はライター兼カメラマンを本業としています。1年ほど前、カメラマンとして受けたインタビュー取材で、びっくりしたことがありました。
プロが選び、プロがレタッチをした写真を無視する編集者
「使う写真は3枚程度だが、ほかも合わせて20〜30枚ほど送ってくれ」となっていました。ここまではおかしくありません。
予備を含めたつもりで6枚を特に選びました。もちろん、プロのカメラマンとして、記事にふさわしい・ちゃんと撮れていると判断した写真です。その上でトリミングや色調補正をして、記事代行会社に納品しました。
それを担当の編集者は完全に無視しました。「ほかも合わせて」の分をそのまま取材先に送り、撮られた本人に選ばせようとしました。
仕事レベルの写真は、慎重にコマ選びをし、レタッチしないと完成品にはならない
取材相手が「自分はよくわからないので、担当してくれたカメラマンに相談する」と判断し、私に連絡をくれました。私からお願いして、「先にカメラマンが選んで、レタッチもした写真が6枚あるはずです。その中から選んでください」と、編集者に回答してもらいました。
放っておいたら、ベストではないコマが選ばれ、トリミングも色調補正も全くしないままの写真がWebの取材記事に掲載されていたはずです。
にわか記事代行会社・にわか編集者だったようです。「それにしても、コマ選び・レタッチなしで写真を出そうとするなんて……なぜこんな連中がいるのか?」としばらく考えて思い当たりました。「これって、スマホで撮ってSNSにアップする感覚なんだ。編集者とは名ばかりなので、それ以外の写真は知らないんだ」
「スマホの内蔵カメラのほうが、いい写真が撮れる」は本当か?
こういった編集者(?)がもし、自分で写真を撮ることになり、しかもそれが仕事としてであっても、スマホを使うのではないでしょうか。また、実際に、Webライターと名乗る人たちの中にも、写真撮影しないといけない案件に、スマホを使う人もいます。
スマホの内蔵カメラを愛用する人たちのその理由
仕事にまでスマホを使う理由としてよく見かけるのは、「デジイチやミラーレスよりも、スマホで撮ったほうがきれいな写真が撮れる」です。
ただ、「きれいな写真が撮れる」とする理由は一様ではありません。
「デジイチやミラーレスだと、使い方を覚えないといけない。そうしないと、失敗写真ばかり作ってしまう。一方、スマホは適当に使ってもちゃんと撮れる」
はたしてそれで、ちゃんとした写真が撮れているかどうかは疑問ですが、とりあえずこれ以上は触れずに置きます。
ほかに多いのは、「デジイチやミラーレスの安い機種と比較すれば、スマホの内蔵カメラの方が機能は上だ。カメラがセールスポイントになっている高級スマホは特にそうだ」と信じている人たちです。こういった人の中に、実際にいました。仕事で写真を撮る必要ができたときに、デジイチやミラーレスには全く関心が向かず、「ちゃんとした写真が撮れるスマホどれですか?」とTwitterで尋ねているのです。
スマホの内蔵カメラには、サイズからの制約がある
10数万円する高級スマホがあり、安いスマホ+安いミラーレスカメラの値段を超えます。「よほどいいカメラを内蔵しているらしい」と考えたくなるのかもしれません。
しかし、「全体でも小さくて薄いスマホの、その中のごくごく一部を使っただけの内蔵カメラが、両手で支えなくてはならず、重量も数百グラムはあるデジイチやミラーレスと互角以上の性能を発揮できる」など、おかしいとは思いませんか?
スマホのイメージセンサーの面積はフルサイズ機の30分の1
こでは詳述しませんが、イメージセンサーは昔のカメラではフィルムに当たり、大きいほど画質に有利です。
しかし、スマホの一般的な機種が採用しているイメージセンサーのサイズは大きめのものでも7.6×5.7mm(1/1.7型)でしかありません。デジイチやミラーレスのフルサイズ機と比べると30分の1程度、APS-C機と比べても20分の1程度です。
安物のカメラほど、強く色調補正された写真が記録される
それでも実際の話として、「比較するために、デジイチやミラーレスでも同じように撮ってみた。スマホの写真が一番きれいだった」といった話は珍しくありません。
光として受けたデータを保存、再生するときの“味付け”が左右している可能性があります。
最も一般的な保存形式であるJPGデータでは、JPG化する段階でコントラストを高めたり、色調をはっきりさせたりします。近年はそれほど顕著ではありませんが、デジカメには「いいカメラほど、あとからの色調補正の必要をなくす傾向」があります。というのは、安物のカメラを愛用する人になればなるほど、Photoshopなどの写真加工ソフトとは縁がなく、そのままでメリハリの利いた写真を歓迎するからです。
一方、高級機種を使う人らは逆です。強く色調補正してしまうと、さらに加工する場合に画質が一段と落ちます。そのため、「あまり勝手にいじらないでくれ」となるのです。
Photoshopとは最も無縁な人たちが愛用するスマホが、最も強く“味付け”されているのは、ある意味当然でしょう。
スマホはピンぼけしない、ぼかしたくてもぼけない
「デジイチやミラーレスでピンぼけ写真ばかり撮っていたのが、スマホで撮ったら、全くない。どの写真もしっかりピントが合っている」もよく聞く話です。
実際、スマホではピンぼけ写真は激減します。ただ、よくチェックして見ると、正確にピント合わせがされているとは限らず、メインの被写体だけではなく、手前も奥も全部くっきりと見えているのがわかるはずです。
これは、イメージセンサーが小さいカメラの特徴です。写真にはピントが合っている距離の前後に、くっきり見えている範囲があります。この前後の距離のことを被写界深度といい、イメージセンサーが小さいほど大きくなるのです。
逆にいえば、スマホでは「前後はぼかすことで、主役を浮かび上がらせる」といった撮り方はできません。(ただし、スマホの開発者らにすれば、これがよほど悔しかったのか、最近のスマホでは「ソフトを使って自動的に加工することで、背景をぼかす」といった機能がある機種が多くなっています)
デジイチやミラーレスでは使うレンズにもよりますが、被写界深度を小さくする・大きくするといった調整ができます。「主役を浮かび上がらせるかどうか。前景・背景はどのくらいまでぼかすか」は写真表現の重要な要素です。つまり、「スマホではこの要素を放棄した撮り方しかできない」と覚えておくといいでしょう。
スマホで撮るのは、小画面で見る・使い捨てにする写真に限定したほうがいい
もし、写真をアップするのがSNS限定で、自分もフォロワーもスマホでしか見ていないのならば、スマホの内蔵カメラで撮った写真で間に合うかもしれません。フォロワーが一巡する数日だけ持てばいいでしょうし、小さい画面で見るだけなので、画質の悪さもさほど気にならないでしょう。「ピントがどこに合っているか」も、だれも気にしないかもしれません。
しかし、パソコンを使って写真を見る人まで視野に入れ、何カ月何年も見てもらうはずの場所にアップしているのならば、大きなダメージです。じっと見ていられない写真があるために、そこで訪問者が逃げてしまう「離脱ポイント」になってしまいます。
また、スマホのカメラを使うにしても、デジイチやミラーレスを使って一通り勉強しておくのは無駄にはなりません。スマホのカメラの特徴と限界がわかり、撮り方も変わるはずです。