「APS-C機やその中古でも十分」とバレると、カメラメーカーには死活問題

写真を始めたい人たちの大きな障害のひとつが、デジカメの値段です。いいデジカメになると、ボディーだけでも50万円、60万円、それ以上します。こういった高級機にばかり目が行くのには、「せっかくだから、中途半端な機材では始めたくない」といった気分があるのでしょう。 ですが、車でいえば、1,000万円以上の高級外車を見てため息をつくのと変わりません。一般の人が日常生活の中で使うのに十分な性能のカメラは、せいぜい10数万円です。ほんの少し型遅れの中古でいいのならば、さらに半分、3分の1の金額で手に入ります。

新イメージセンサーを採用して出ることが多い新製品

今まで気にしたことのない人にすれば、デジカメは驚くほど次々に新製品が出ます。新製品を買ったつもりの人も、「もう型遅れになってしまった」とびっくりするでしょう。まずは、「なぜ、新製品が出るのか」「旧製品と新製品は何が違うのか」を理解しておきましょう。

デジカメは新製品を買っても、2年もすれば後継機種が出る

同じシリーズのカメラを比較的長期間出し続けるFUJIFILMの製品を例にすると、新製品は次のような間隔で発売されてきました。

・X-T10(2015年6月)→X-T20(2017年2月)→X-T30(2019年3月) →X-T30Ⅱ(2021年11月)

・X-T1(2014年2月)→X-T2(2016年9月)→X-T3(2018年9月) →X-T4(2020年11月)

XシリーズはイメージセンサーがAPS-Cサイズのミラーレスカメラです。まだあまり詳しくない人は、「APS-Cサイズ」などは無視して、「Xシリーズは、FUJIFILMの主力ラインアップ」とだけ覚えておいてください。

X-T30Ⅱはそのラインナップの中の中級機、X-T4は上級機です。こうやってみるとわかるように、新発売の機種を買ってもほぼ2年で次が出て、型遅れになってしまいます。これは他社でも、大きくは変わりません。

新製品と旧製品の主な違いはイメージセンサー

当然のことながら、新製品には新しい魅力が付け加えられています。この点で失敗するようでは、新製品を出す意味がありませんし、お客も見向きはしませんから。

新しい魅力になりうる大きな要素のひとつが、新開発のイメージセンサーです。X -T1〜X-T4で見ると次のようになっています。

・X-T1(X-Trans CMOS IIセンサー:有効画素数 1630万)

・X-T2(X-Trans CMOS IIIセンサー:有効画素数 2430万)

・X-T3(X-Trans CMOS 4センサー:有効画素数 2610万)

・X-T4(X-Trans CMOS 4センサー:有効画素数 2610万)

イメージセンサーは受けた光を電気信号に変換する装置で、かつてのフィルムカメラならば、フィルムに当たります。その性能は画質を決定する最も大きな要素なので、新製品を出す理由にされるのも無理のないところです。

X-T3からX-T4へと進化したときには、イメージセンサーには変化はありません。このときの「新しい魅力」は「ボディー内への手ブレ補正機能の搭載」でした。カメラの機能の解説はほかのページに譲りますので、ここでは「X-T3までは省略していた重要な機能を、X-T4では採用した。それを新製品のセールスポイントにした」と理解しておけばいいでしょう。

まだ使えるデジカメを捨て、新製品に飛びついてもらわないとメーカーは困る

「カメラメーカーはなぜ、こんなにも頻繁に新製品を出すのか」は、立ち止まって考えてみる必要があります。

デジカメは消耗品ではありません。どちらかといえば耐久消費財で、長く使えます。しかし、5年も10年も使われてはメーカーは困ります。売り上げが伸びません。そこで、イメージセンサーもどんどん改良し、新製品も次々に出して、「旧製品では○○ができませんでした。画質も今度の製品の方が上です」とアピールします。こうやって、「新製品でなければ、いい写真が撮れないのでは?」の焦りを利用者に覚えさせるのです。

2千数百万で、画素数競争はもう終わりらしい

「新製品はここが勝っている」ともっともアピールしやすかったのが、画素数でした。どの機種を選ぶか迷っている人が、カメラ店などで口にするのも、「それ、何万画素ありますか?」でした。

画質のよし悪しを決めるのは画素数だけではありません。しかし、シンプルに数字で比較できるためか、画素数が前面にでてきたようです。

どのメーカーも他社との差を付けるために競って画素数を増やしました。先に見たX-T1(1,630万画素)からX-T3(2,610画素)への変化にもはっきりでています。

しかし、画素数を増やす競争は、ほぼ過去の話になりました。2,000万画素か2千数百万画素で落ち着きつつあります。それもそのはずで、A4程度のプリントを作るにも、1,000万画素もあれば足ります。パソコンで見るのならば、大きなモニターでもその数分の1です。すでにオーバースペック気味なのです。

一方で、4,000万画素やそれ以上の画素数を誇る機種もあります。しかし、これだけの画素数が必要になるのは、プロのカメラマンの中でも、ポスターなど特に大きな印刷物用の写真を撮る人だけです。

旧製品と新製品の画質の差は、肉眼で見てもわからない?

カメラの新製品を、プロの目から紹介するサイトはいくつかあります。新製品が発表されるたびに、旧製品のとの画質の違いを採り上げた記事がでます。

もちろん、「よくなっていない」「むしろ悪くなっている」といった悪い評価もないわけではありません。しかし、多くは「細部まで、にじみがなく写るようになった」「コントラストがよくなっている」「“抜け”がよくなった(クリアになった、鮮明になった)」などなど、新製品のよさがアピールされます。

悪い評価にしろ、良い評価にしろ、どういった検証の仕方をしているか気にしてみましょう。多くの場合、画像の中のごくごく一部をこれでもかというぐらい拡大して、その上で、「細部のにじみがなくなった」などとしています。

意地悪くいってしまうと、「肉眼ではわからないぐらいの差でしかない。しかし、『差がわからない』では記事として成立しない。そのため、どんな手を使っても違いを見つけ出す」といったところです。

いいデジカメを象徴する「フルサイズ」とはなにか

デジカメがほとんどわかっていない人でも、決して少なくない割合の人が欠かせない条件と考えているのが、「フルサイズ」です。また、しばしばフルサイズと対にして意識され、どちらかというと「フルサイズに劣る存在」とみなされるのが、「APS-C」です。これらの違い、あるいは、違いのなさを理解するのが、デジカメに無駄に高いお金を出さない第一歩です。

フルサイズとはイメージセンサーの大きさの種類のひとつ

「フルサイズ(のイメージセンサー)」の言葉は、「画素数(の多さ)」と並んで高画質を印象づけるために使われます。少なくとも、フルサイズ 機の製品を持つメーカーはそういった宣伝をしてきました。

メージセンサーには「撮像素子」という、差し込んでくる光の強弱を記録するミクロサイズの部品が並んでいます。この撮像素子の数がそのまま、今まで話してきた「画素数」です。

「フルサイズ」とは、撮影素子が2,000万個やそれ以上集まってできているイメージセンサーが、かつて最も一般的だった35mmフィルムと同じ大きさ(24mm×36mm)であることを意味します。

APS-Cのイメージセンサーとは

Nikon、Canon、Sonyはフルサイズのイメージセンサーを採用した機種とAPS-Cのイメージセンサーを採用した機種のラインアップを用意しています。「APS-C」とは、フルサイズの4/9の面積のことです。

もし、どちらも同じ2,000万画素であれば、撮像素子の大きさも APS-Cは4/9しかありませんん。受ける光の量も少なくなります。「その分だけ、光の強弱を記録するのに不利」とされてきました。

特にNikonが顕著ですが、 APS-C機は普及機、フルサイズ機は高級機の位置づけになっていて、力を入れているのはフルサイズ機の方です。APS-C機はイメージセンサーにつくホコリを振動で落とす機能などが省略されています。おそらくはコストを下げ、値段を安くするのが狙いでしょう。レンズのラインアップも貧弱です。

かつて、トヨタ自動車に「いつかはクラウン」のCMがありました。それと同様に、「今は安いAPS-C機を使っていても、いつかは高級機であるフルサイズ機を購入するようになってほしい」との意図が明らかです。

フルサイズ機への執着を持つ必要、もはやない

Nikonなどの販売戦略のせいで、「APS-Cのイメージセンサーは安いカメラ用」とのイメージが広がっているかもしれません。

しかし、実際は十分な性能を持っています。これまでの話をふたつ思い出してください。「画素数を増やす競争は終わった」「画質の差は、もはや肉眼では確認できないレベルになっている」

画素数を増やすには撮像素子の小型化が不可欠です。小型化を進めるだけではなく、いっそうの高性能化を実現しながら、これまで撮像素子は改良されてきました。画素数を増やさなくてよくなれば、目指すのは高性能化だけです。すでにこの状態に入っていて、「4/9の大きさの撮像素子」でも十分な性能を持っています。

ちなみに、「フルサイズ、4,000万画素」と「APS-C、2,600万画素」であれば、撮像素子ひとつひとつの大きさはほぼ同じです。「APS-C、2,600万画素」の画質が悪いというのならば、「フルサイズ、4,000万画素」でも「無理して画素数を増やしたために、画質が悪い」の評判が立ってもおかしくないはずです。しかし、現実にはそんな評判は聞いたことはありません。

仮に、まだフルサイズ機とAPS-C機の画質に差があったとしても、「もはや肉眼では確認できない」のレベルになっているのは、例外ではありません。

APS-C機に切り替えるだけで購入費用は下げられる

軽自動車が買えるほど高額なのデジカメは、ほぼフルサイズ機に限られます。値段が高くなる理由はいくつもありますが、「大型のイメージセンサーは製造が難しく、少しサイズアップするだけで等比級的にコストが上がる」も大きな理由のひとつです。

また、今回は触れていませんが、レンズの設計・製造も同じことがいえ、フルサイズ機用のレンズは割高です。

狙いをフルサイズ機からAPS-C機に切り替えるだけで、購入費用は大幅に下げることができます。

フルサイズではなくAPS-Cが主力のメーカーもある

「APS-C機も十分な性能を持っている」とご納得いただけても、「機能は省略されている」「レンズのラインアップが貧弱」など、安物のカメラ扱いをされている製品に手を出すのはためらいがあるかもしれません。

そういった人たちに目を向けてもらいたいのが、FUJIFILMの製品です。

FUJIFILMのラインアップはAPS-C機と中判機のふたつです。フルサイズ機は作っていません。

「中判」とはフルサイズよりも大きなサイズをいいます。このサイズのイメージセンサーを採用した製品はあまりに高級機すぎて、値段も高すぎて、一般の人には無縁です。

主力はAPS-C機です。強引なコストダウンのために機能を省略することはなく、レンズのラインアップも充実しています。詳しくは別のところで論じたいと思いますが、10数万円あれば、初めてデジカメを使う人たちには十分すぎる性能のボディーとレンズが手に入ります。

「それでも予算オーバーだ」というのならば、2モデルほど前の中古も選択肢に入れましょう。「2モデル前」といっても、たかだか4、5年前には最新だった機種です。

値段の高いカメラは「使いたくなくなる」可能性がある

「軽自動車並みの値段のフルサイズ機ボディーに数万円のレンズをつけて、写真を撮りに行く自分の姿」と「ボディーとレンズ合わせても10万円そこそこのAPS-C機で撮りに行く自分の姿」を想像してみてください。

決して少なくない人が、「軽自動車並みの値段」にびびってしまい、持ち出すのをためらうのではないでしょうか。それだけではなく、フルサイズ機は大きく重量もあります。この意味でも、フルサイズ機は気楽に使えるデジカメではありません。一大奮発をして買っても、ホコリをかぶらせてしまいかねません。

一方、「10万円そこそこ」ならば、ちょっとした外出の際にもリュックに放り込めるのではないでしょうか。

これも自動車に例えると、次のような話になります。「免許取り立てなのに、最初から高級外車を買う必要はないよ。どうせ、度々ぶつけてデコボコにするだけだ。最初はカローラなどの大衆車でいい。お前の使い方ならば性能も十分だ。お金がないならば、中古車という手もある」

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