私がNikonをおすすめしない理由 「昔から電子部品が弱い」

写真好きな人にはたいてい“推し”のカメラメーカーがあります。だれか知り合いが、いや、知り合いでなくても「カメラを買おうと思うけど、どこのメーカーがいいか?」とつぶやこうものならば、ここぞとばかり自分の推しを勧めるでしょう。私もそんな一人ですが、「どこがいいか」は少しは迷います。逆にためらわずに「やめたほうがいいよ」と言ってしまうのがNikonです。「電子部品が弱い」「四半世紀にわたり、開発競争に負け続け、経営判断も誤り続けた」が理由です。

長い間愛用したので、正直なところ心苦しさも感じます。しかし、Nikonをどう見ているか、正直に書いてみます。

ニコンがよかったのは、カメラが金属とバネでできていた時代まで

今でもNikonを「プロも使う信頼性の高いメーカー」と信じている人も少なくないでしょう。ただ、本当にNikonが強かった・よかったのは、フィルムカメラの時代で、ずいぶんと昔の話です。

報道現場ではCanonに圧勝だったNikon

私が最初に使ったカメラはCanonでした。しかし、1990年ごろからはNikonです。

私は新聞社に記者として入社したのですが、変則的な人事で写真部に異動になりました。報道カメラマンというわけです。

このとき、機材担当の先輩から、「CanonをやめてNikonに変えてくれ。報道の世界では圧倒的にNikonが強い。機材を両方そろえるようなムダはできない。部として、Nikonで統一している」。「強制的に変えさせられた」というしかありません。

実際に取材に出ると、みかけるのはほとんどNikonでした。たとえば、プロ野球の取材に行くと、1塁側3塁側のカメラ席では、Canonは10人に1人いるか2人いるか、あるいは全くいないかの状態です。

当時、言われていたのは「レンズはCanonの方がいい。だから、雑誌系の人はよく使っている。一方、Nikonは頑丈だ。使い方が荒い新聞系ではNikonばかりになる」でした。

F3、New FM2など私もNikon30年近く使った

私個人用として最初に手渡されたのは、F3とNew FM2でした。どちらも、名機と呼ばれ、Nikonを代表するフィルムカメラです。中古としても今でも人気があるようです。

このころのカメラに使われている電子部品は、露出計関連などほんの少ししかありません。シャッターを落とすのも、フィルムを巻き上げる際に、バネを矯め、そのバネが弾ける力を利用していました。

フィルムを高速で巻き上げるモータードライブはすでに一般化していました。しかし、電気を使うのは、文字通りモーターだけです。「電子部品」と呼ぶほどのものではありません。

極端にいえば、金属やプラスチックの筐体(きょうたい)の中にバネや歯車、ガラスを組み込み、ほんの少し電子部品を加えただけでカメラ・レンズはできていました。

Canonとの開発競争では連戦連敗

それから、10数年間の写真部員時代だけではなく、早期退職し、フィルムカメラがデジタルカメラに変わってもNikonを使い続けました。

この間、「あのままCanonを使い続けていたら、こんなにフラストレーションは感じなかったのになぁ」と思う場面が何度もありました。同じ時期の対抗機種同士を比べると、どうみてもCanon製品のほうが魅力的なのです。

失敗だったボディー内蔵モーターのオートフォーカス

前史的な製品を除くと、オートフォーカスの一眼レフカメラ・レンズを発売したのはCanonは1987年、Nikonは1986年とNikonがやや先行しました。

ただ、同じくオートフォーカスといっても、Canonは「レンズ内モーター」、Nikonは「ボディー内モーター」と両者の製品で大きな違いがありました。

レンズ内モーターはその名前のとおりに、レンズ1本ごとに内部にピント合わせのためのモーターを組み込みます。「広角レンズであろうと望遠レンズであろうと、そのレンズごとに最適のモーターを選べる」がメリットです。「ボディー1つ2つにレンズはそれより多くの数を持つ人が多い。そのレンズの数だけモーターが必要なので、全体で見れば割高になる」がデメリットとされました。

「ボディー内モーター」はカメラボディーの中にモーターを置き、ここから軸を連結させて、レンズ内のピント合わせのためのレンズ群を動かします。メリット・デメリットはレンズ内モーターと逆で、「モーターの数が少なくて済むので、全体としては割安になる」「レンズの種類によっては、モーターがしっかりと働かない」です。

特に望遠・超望遠をオートフォーカス化したときに、「ボディー内モーター」のデメリットがはっきりでます。ピント合わせのために動かす部分が大きく重いので、カメラ内の小さなモーターの力では、ピントが合う速度は実用に耐えないレベルでした。Nikonを使っていたプロカメラマンも一気にCanonへと流れました。

Nikon製品も数年後にはレンズ内モーターが中心になりました。「Canonに完敗した」というしかありません。

超望遠レンズの場合、遠目からでもNikonとCanonの見分けはすぐにつく。黒がNikonで白がCanonだ。かつては圧倒的に黒が多かったが、今は逆転している。

イメージセンサーのフルサイズ化でも後れをとった

電子部品の例にもれず、イメージセンサーの性能は急激に上がってきました。かつての35ミリフィルムと同じ大きさのフルサイズセンサーは、特殊なレベルの高画質が必要な人以外にはオーバースペックだと、私自身は考えています。その9分の4の面積のAPS-Cサイズのセンサーで十分です。

しかし、デジカメが登場してしばらくはイメージセンサーの性能が低く、画素数を増やすにも色の再現性を上げるにも大きいほど有利でした。ただ、大型のイメージセンサーを作るのは難しかったらしく、デジタル一眼レフ(デジイチ)も、これまた前史的な製品を除くと、NikonもCanonもAPS-Cサイズのイメージセンサーで始まっています。

Canonは2002年にフルサイズのイメージセンサーを採用したデジイチを発売したのに対し、Nikonは2007年でした。5年もの遅れの影響は大きく、この間にもNikonはまたシェアを減らしました。

デジイチに執着し、ミラーレス参入でも時期を見誤る

Nikonがミラーレスに消極的なのは、よく知られていました。「自社製品のデジイチと共食いになる」が理由です。「ミラーレスを出しても、その分、デジイチの売り上げが落ちるだけ」と心配したのです。しかし、今では好むと好まざるにかかわらず、ミラーレス一本でやっていくしかなくなっています。

Sonyにすっかり差をつけられてからミラーレスに参入

Nikonがミラーレスに参入したのは、2011年でした。しかし、コンパクトデジタルカメラよりは大きい程度のイメージセンサーを採用した製品であって、今日の製品とは別のタイプのカメラでした。しかも、2017年には生産を中止しています。

この時点でデジイチの売り上げは右肩下がりなのに対し、ミラーレスの快進撃が目立っていました。その中心になったのが、ミラーレス1本に絞っているSonyの製品です。「デジイチは時代遅れになりつつある」とNikonも認め、2018年になってようやくフルサイズセンサーを採用したミラーレスを出しました。

一方、長らくライバルだったCanonはフルサイズのミラーレスを始めたのはNikonと同時期でした。しかし、APS-Cサイズのミラーレスならば2012年から始めていました。

頼みの綱だったデジイチもすでに事実上撤退

2022年8月になって、新聞各紙が一斉に「Nikon、一眼レフ開発から撤退」と報じました。Nikonは「撤退の決定はしていない」と一貫して否定しています。しかし、「開発は中断している」とは認めています。また、東洋経済などの経済雑誌は、「小型・軽量化できるなどミラーレスのほうがメリットが多い。一眼レフ撤退は必然の流れだ。」と論評しています。

Canonはこれより先に、デジイチからの撤退を予告していました。結局、Nikonの決断の遅さと、踏ん切りの悪さばかり目立つ話になってしまいました。

カメラメーカーで事務機器部門などがないのはNikonだけ

「なぜ、ここまでNikonが技術開発で負け続け、経営判断も間違ったのか」にはいくつかの理由があるでしょう。私が目にした中で「それは大きい要素だったかも」と思うのは、「Nikonはカメラ専業で、ほかに電子部品を使う部門がない。だから、電子部品が得意でなく、カメラの電子機器化も遅れる」です。

Sonyが電子部品に強いのは、いうまでもないでしょう。Canon、RICOH(カメラのブランド名は「PENTAX」)は事務機器もやっています。Panasonicには事務機器だけではなく家電もあります。OLYMPUSは医療機器の大手です。FUJIFILMも富士フイルムビジネスイノベーション(旧・富士ゼロックス)を子会社に持っています。

Nikonは半導体製造装置(半導体露光装置)をやっていますが、これはカメラ・レンズ技術の応用です。しかも、一時は「カメラ・レンズと並ぶ2本柱」と呼ばれましたが、今はパッとしないようです。

これから買うならばSonyFUJIFILM

Nikonはカメラ事業だけ見ると、2019年度、2020年度と赤字でした。2021年度は少し盛り返して黒字化したようですが、「円安のおかげ」と見られています。

“オオカミ少年”化していますが、「倒産する」とのうわさが度々でます。2017年には「経産省と三菱東京UFJ銀行(現・東京UFJ銀行、Nikonのメインバンク)が主導して、FUJIFILMと合併させる」との話も流れました。

フルサイズやAPS-Cのカメラはいったん使い始めると、同じメーカーを使い続ける人がほとんどです。「倒産するかも」が全くの冗談といえず、技術開発や経営判断で失敗し続けてきたメーカーを推すわけにはいきません。

「では、どこのメーカーならばいいのか」が気になるところでしょう。これはこれで大きなテーマなので、詳細は別の機会にし、結論だけだしておきます。

「私個人が数年前にNikonから乗り換えたのがFUJIFILMで、大正解だったと思っている。もし、『寄らば大樹』と安心したいのならばSonyがいい」

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